DNAでわかった
日本人とユダヤ人の
親戚関係

久保有政

40%の日本人DNAはユダヤ人との強いつながりを示す

 男性の細胞の中には、Y染色体というものがあります。それは遺伝子DNAの格納庫のようなものです。
 Y染色体の遺伝子情報は、父から息子へ、男系でのみ伝えられます。
 日本人男性のY染色体には、中国人や韓国人にはほとんどみられない、非常に重要な特長があります。
 それは日本人の40%近くに及ぶ人々のY染色体DNAには、「YAP」(ヤップ)と呼ばれる特殊な遺伝子配列があることです。

日本人のY染色体の系統

 約40%      D系統(YAP) 
約50%  O系統(典型的アジア系) 
残り  他系統

 YAP遺伝子は、中国人にも韓国人にもほとんどみられないものです。
 アジアの中で大変珍しいのです。それが日本人の40%近くもの人々にみられます。

 Y染色体のDNAには、いろいろな系統(ハプログループ)があります。その中でも、YAPという遺伝子配列を持っているのは、D系統とE系統のみです。
 DとEです。これを覚えて下さい。
 D系統とE系統だけが、YAP遺伝子を持ち、同じ先祖から来ています。つまり親戚関係にあります。
 日本人の40%近い人々はD系統。D系統には、YAP遺伝子配列が含まれています。

 もともと中近東にDE系統というものがありました。それがのちにD系統とE系統に分かれたのです。
 では、D系統と親戚関係にあるE系統は、どのようなものでしょうか? それはユダヤ人にたいへん特長的なものです。
 全世界のユダヤ人の20~30%は、E系統なのです。日本人と同じく、YAP遺伝子配列を持っています。つまり遺伝子的にみて親戚関係にあります。

 このE系統は、いわゆる「イスラエルの失われた10部族」の故郷サマリヤの地にもみられます。
 今日サマリヤの地には、古代イスラエル人の末裔が住んでいます。その多くは異邦人と混血しています。しかし聖書によると、彼らの中にいる祭司はレビ族の人々で、古代から男系をしっかり受け継いできました。
 そして彼らサマリヤのレビ族祭司たちもE系統なのです。YAP遺伝子配列を持っています。

 また、中国のチベット近くに、チャン族(チャン・ミン族)という少数民族がいます。彼らは日本人と同じような顔をしています。彼らはイスラエルの失われた10部族の末裔として、「アミシャーブ」というイスラエルの失われた10部族調査機関によって認められた人々です。
 彼らにも、日本人と同じくD系統が23%みられます。彼らもYAP遺伝子配列を持っているのです。つまり彼らも、D系統の日本人と遺伝子的に親戚関係にあります。

現代ユダヤ人のDNA

 さて、これらのことをもう少し掘り下げてみてみましょう。
 ユダヤ人のYAP遺伝子配列についてみてみましょう。
 ユダヤ人は20~30%が、YAP遺伝子配列からなるE系統なのだとお話ししました。
 これはじつは、アシュケナージ・ユダヤ人(北欧系)においても、スファラディ・ユダヤ人(南欧系)においても同様に当てはまります。

 かつて日本では、「アシュケナージ・ユダヤ人は偽のユダヤ人」という説がはやりましたね。しかしこれは遺伝学から言うと、全くの間違いなのです。
 アシュケナージもスファラディも、全遺伝子の88%は共通しています。ですから遺伝学者の中に、「アシュケナージ・ユダヤ人は偽ユダヤ人」という説を支持する人は一人もおりません。
 アシュケナージ・ユダヤ人も、スファラディ・ユダヤ人も、同じくアブラハム、イサク、ヤコブの子孫です。両者とも本当のユダヤ人です。

現代ユダヤ人のY染色体の系統

20-30%   E系統(YAP)
約30%   J系統
20-30%   R系統
残り   その他
(上記はアシュケナージ・ユダヤ人およびセファルディ・ユダヤ人に共通)

 今日のユダヤ人は、アシュケナージでもスファラディでも、その20~30%は日本人と同じくYAP遺伝子配列からなるE系統です。
 そのほか今日のユダヤ人には、J系統やR系統なども同じくらいの割合でみられます。しかしJ系統やR系統は、混血によって入ったものと思われるのです。ユダヤ人も混血しています。

 とくに、西暦70年のエルサレム滅亡のあと、ユダヤ人は祖国を失い、世界に離散しました。それ以前のユダヤ人の定義は、「父がユダヤ人であること」でした。
 しかしその後ユダヤ人の定義は、「母がユダヤ人であること」に変わっていきました。
 これはユダヤ人は迫害を受け、レイプされるユダヤ人女性も少なくなかったからです。その場合、本当の父親が誰であるかわからないことも多く、「母がユダヤ人であること」という定義に変わりました。
 そういう悲しい歴史がありました。こうして、男系で伝えられるY染色体遺伝子は薄まり、そのためにユダヤ人男性のY染色体DNAには、いくつかの系統が入るようになりました。
 このようにユダヤ人は遺伝子的には混血しています。それでも彼らは、宗教的にユダヤ人としてのアイデンティティを保ってきたのです。

古代イスラエル人のDNA

 今日のユダヤ人の遺伝子については以上のようです。
 では古代イスラエル人の基本的なY染色体DNAは、何系統であったでしょうか?

 それはDE系統もしくはE系統であったでしょう。YAP遺伝子の系統です。
 つまり日本人のD系統と遺伝子的な親戚関係にあたります。
 そのことは、古代から男系を守ってきたサマリヤのレビ族祭司たちが、先に述べたようにE系統であることからもわかります。

 また今日も、全世界のユダヤ人グループには必ず、E系統が顕著な形で存在するのです。
 たとえば、E系統の中でも特にE1b1b1というさらに細分化されたタイプの遺伝子について、「ファミリー・ツリーDNA」という遺伝子調査会社のホームページには、こう述べられています。
 「これは世界中のあらゆるユダヤ人の間にみられる。アシュケナージ系、スファラディ系、またクルド系やイェメン系のユダヤ人、またサマリア人、さらには北アフリカ・チュニジアのジャーバのユダヤ人にさえみられる」
 つまりE系統は、全世界のユダヤ人グループに普遍的に顕著にみられるものなのです。

 さらにE系統またはD系統として、YAP遺伝子配列は今日のユダヤ人だけでなく、いわゆるイスラエルの失われた10部族の末裔といわれる人々にも顕著な形でみられます。
 かつて古代イスラエルの統一王国は、紀元前10世紀に北イスラエル王国と南ユダ王国に分裂しました。南ユダ王国の子孫がいわゆるユダヤ人です。
一方、北イスラエル王国にはイスラエルの10部族がついたのですが、のちにアッシリヤ捕囚というものがあり、彼らは異国の地に連れ去られ、のちに離散しました。
 ですからユダヤ人と、このイスラエルの失われた10部族とは兄弟なのです。

 イスラエルの失われた10部族は、長く「失われた」と言われてきました。しかし20世紀以降の調査で、その末裔が特にシルクロード付近の各地に散らばって今日も生きていることがわかりました。
 彼ら10部族は、顕著な形でE系統あるいはD系統を持っているのです。つまりYAP遺伝子配列を持っています。

 たとえばE系統は、「イスラエルの失われた10部族」の末裔といわれる「パタン族」(アフガニスタン、パキスタン)にも顕著にみられます。
 イスラエルの失われた10部族中の「ナフタリ族」「イッサカル族」の末裔との伝承がある「ウズベク・ユダヤ人」(ウズベキスタン)も、約28%がE系統です。
 10部族中「ダン族」に属するといわれる「エチオピア・ユダヤ人」(ファラシャ)も、約50%がE系統です。

 さらに中国のチベット付近に住むチャン族(チャンミン族)も、イスラエルの失われた10部族の末裔ですが、日本人と同じような顔を持ち、また日本人と同じようにD系統を顕著な形で持っています。彼らの23%はD系統で、日本人と同じくYAP遺伝子配列を持っているのです。
 このように、今日の全世界のユダヤ人グループ、またサマリヤの祭司レビ族、イスラエルの失われた10部族の末裔たち、そして日本人を互いに強く結びつけているのが、YAP遺伝子です。
 これらのことから、日本人の40%近いD系統の人々は、古代イスラエル人の末裔であり、またユダヤ人の親戚であるということがいえます。

D系統とE系統が分かれた時期

 以上簡単に述べました。
 ここで、もう少し補足して述べたいと思います。
 Y染色体のDE系統は、中近東でDNAのD系統とE系統に分かれたと述べました。しかしその時期について、よく疑問が出されます。。
 一般に遺伝子学者の間では、D系統とE系統の分離は5万年~6万年前と言われています。
 しかし歴史学の上では、北イスラエル王国の10支族がアッシリア捕囚によりイスラエルの地から引き裂かれ、南王国のユダヤ人と分断されたのは、今から「約2700年前」です。

 ずいぶん時間的な差があるようにみえるでしょう。けれども5万~6万年前というのは、実際に測った実測値ではないのです。これは「分子時計(分子進化時計)仮説」に基づく推定年代です。
 これは進化論が提示する年代に基づき、それに合わせて遺伝子の変化時間を推定して算出したものです。しかし推定であり仮説ですから、実際こうした推定年代は、過去から現在に至るまで、かなり変化してきています。
 しかも、進化論に基づく「何万年前」「何十万年」といった大きな年数は、事実上、今日では根拠を失ってしまっているのです。

 進化論者が「何万年前」というとき、本当は「数千年前」にすぎないということがほとんどです。
 というのは、年代測定法の一つに「炭素14(C―14)法」(放射性同位元素による年代測定法の一つ)というのがあります。これは、年代のわかっている考古学的史料などと照らし合わせて、その正確さが明らかになっているものです。
 それで測ると、進化論が「何万年前」と主張しているものも、実際はたいてい「数千年前」にすぎません。「そんなばかな」と思うかもしれないが、実際そうなのです。
 これについては進化論に立つ科学者と、創造論に立つ科学者たちとの間に激しい論争が交わされています。

 たとえば進化論者が「数十万年前」と述べているネアンデルタール人の遺骨を炭素14法で測ると、「数千年前」としか出ません。
 「数万年前」とされるクロマニョン人にしてもそうです。創造論に絶つ科学者たちは、そうしたことを解説しています。
 Y染色体DNAのD系統とE系統が分かれたのは、実際は今から数千年前でしょう。そしてD系統の人々が初めて日本列島に渡来したのも、今から2000~2700年前頃と思われます。
 縄文時代も、実際は何万年も続いたものではありません。こうしたことは、創造論に立つ科学者たちの議論を参照してくださるといいと思います。

ユダヤ人のJ系統について

 つぎに、ユダヤ人のY染色体DNAのJ系統について述べたいと思います。
 今日のユダヤ人の間には、コーヘンという名前を持つ人々がいます。彼らは祭司家系の中でもとくに由緒ある人々で、大祭司アロンの子孫とされています。
 祭司であるコーヘンの人々の多くは、CMH=コーヘン様式DNAと名づけられた遺伝子配列を多く持つことがわかりました。
このCMHはJ系統に属します。そのことから、コーヘンに限らずユダヤ人固有のY染色体は、もともとJ系統なのではないか、という考えが欧米などにあります。

 しかし本当に、ユダヤ人固有の遺伝子はJ系統だったのかというと、そうとも言えないのです。
 なぜならCMHは、コーヘンの祭司家系に顕著にみられるものの、じつはコーヘンでなくても、またユダヤ人でなくても、しばしば見いだされるものであることが、その後の調査でわかりました。
 つまり当初「コーヘン様式」と名づけられたものの、そののち調査を進めると、それは決してコーヘン特有ではなく、ユダヤ人以外の民族にもみられるものだったのです。

 J系統は中近東をはじめ、広く様々な民族にみられるものです。
 また、大祭司アロンはレビ族出身で、一般のレビ族も男系を保ってきましたが、彼らのDNAを調査すると、J系統は少ないことがわかりました。
 J系統はアシュケナージ・レビの人々で10%、スファラディ・レビが32%程度にすぎません。わりに少ないのです。

 またJ系統は、シルクロードに沿って今も生きているいわゆるイスラエルの失われた10部族の末裔の人々には、ほとんど見られません。パタン族の場合J系統はわずか6%ですし、イグボ・ジューズ(ナイジェリア)やベネ・エフライム(南インド)、ベタ・イスラエル(ファラシャ、エチオピア)、ブカラン・ジューズ(ペルシャ)、チャン族(中国南西部)などは、全くかほとんどJ系統を持っていません。
 一方E系統は、アシュケナージ・レビで20%、スファラディ・レビで10%程度みられます。さらに、世界中のすべてのユダヤ人グループに顕著な形でみられるものです。
 これはE系統が、西暦70年のユダヤ人離散以前から広くユダヤ人の基本的DNAだったからでしょう。

 この古代イスラエル人の遺伝子が何系統だったかという問題については、次のことも念頭におく必要があります。
 それは、古代イスラエル人の間には生まれながらのイスラエル人だけでなく、異邦人からの「帰化人」も多くいたことです。
 たとえば、古代イスラエルの指導者ヨシュアと共に活動した有名な英雄のカレブは、もともと異邦人でした。カレブは「ケナズ人」でしたが、帰化してイスラエル人となり、ユダ族に編入されていたのです(民数記32・12、13・6)。そして大活躍をしました。

 聖書には、古代イスラエル人の出エジプトのとき、エジプトを出ていったイスラエル人のなかに沢山の「外国人」も混ざってきた、と書かれています。彼らが、聖書で「在留異国人」と呼ばれる人々です。
 モーセはイスラエル人に、「自分を愛するように在留異国人をも愛せよ」と教えました。
 そして在留異国人も、もしモーセの律法を守り、割礼を受けるなら、帰化してイスラエル人となることができました。
 つまり古代から、すでにイスラエル人は様々に混血していたのです。祭司のレビ族に編入された人々もいたでしょう。同じレビ族といわれても、遺伝子の系統が様々であることには、そのような理由があります。

イスラエル人固有のDNA

 このように古代イスラエル人の混血の秘密を探っていくと、そこに見えてくるのは、生まれながらのイスラエル人のY染色体DNAはJ系統ではなく、E系統あるいはその元のDE系統だったろうということです。
 YAP遺伝子配列を持つ系統で、日本人男性のY染色体D系統と同様です。
 この考えが正しければ、日本人の40%近い人々は、古代イスラエル人と強いつながりがあることになります。

 また、しばしば、
 「D系統の日本人がイスラエル人とつながりがあるのであれば、D系統でない日本人男性や女性は、イスラエル人と関係がないのか」
 という質問を受けることがあります。しかし関係がないのではありません。
 今日、日本人は「単一民族」といわれるほどに深く混血しあい、とくに母系(母方)のほうでは様々な血が混ざり合っています。先祖のミトコンドリアDNAは、男性にも女性にも受け継がれるからです。
 ですからそのような意味で、日本人全体は、古代イスラエル人と強いつながりを持っているのです。そして今日のユダヤ人とも、強い親戚関係にあります。

シンルン族になぜDもEも見出されなかったか

 最後に、もう一つの質問にお答えしておきましょう。
 インド北部やミャンマーに、シンルン族(メナシェ族)と呼ばれる人々がいます。
 彼らは、私たち日本人と同じような顔つきをした東洋人ですが、古代からイスラエル人の文化伝統を持ち、イスラエルの失われた10部族調査機関アミシャーブによっても、10部族の子孫と認められた人々です。
 彼らはユダヤ教を学び直し、すでに1000人以上がイスラエルへ帰還して、普通にユダヤ人として生活していることで有名です。

 しかし、彼らの遺伝子調査の結果は意外なものでした。
 彼らのY染色体を調べてもE系統もD系統も見出されませんでした。さらにJ系統やCMHも見出されなかったのです。
 彼らのほとんどはアジア人に典型的なK系統、O系統がみられるだけでした。
 しかし、DNA科学者たちは、シンルン族のミトコンドリアDNAも調査しました。Y染色体DNAが父系の遺伝情報を示すのに対し、ミトコンドリアDNAは母系の遺伝情報を示します。
 その結果は、シンルン族の人々は中近東、およびウズベク(中央アジア)のユダヤ人に近縁であることを示していました。
 なぜ、シンルン族の父系の遺伝情報を示すY染色体DNAの結果が、典型的なアジア人のものだったのでしょうか?

 じつはシンルン族のたどった歴史を知るならば、彼らのY染色体にD系統もE系統もみいだされなかった理由は、容易に理解できます。
 というのは、シンルン族は中国を放浪していたとき、他民族に支配され、奴隷にされて苦役を課せられたのです。男性は奴隷に駆り出され、村に二度と戻って来ることがなかった。女性は中国人に犯されることが多かったのです。
 したがってそこに生まれた子どもたちは、シンルン族男性のY染色体ではなく、中国人男性のY染色体を持つことになりました。
 また中国では、戦争があると、征服された民族の男子は皆殺しにあうことも多くありました。だから男系のY染色体は、きわめて残りにくかったのです。

 このように、苦難の歴史があるとき、Y染色体は残りにくいのです。消滅してしまうことさえあります。
シンルン族の父系Y染色体にD・E系統が見出されず、母系ミトコンドリアDNAにのみユダヤに近縁なものが発見されたというのは、こういう悲しい歴史を物語っています。
 これを思うと、今日も日本人の40%近い人々にY染色体D系統が残っている事実は、貴重なことでしょう。
日本人も混血していますが、D系統が約40%も残ったのです。
それは現代ユダヤ人や古代イスラエル人と、日本人との強い結びつきを物語っています。

(詳しくは拙著『日本とユダヤ運命の遺伝子』(学研)をお読み下さい)

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